2011年5月9日 のアーカイブ

親愛なる友へ

ロビンです。


3月11日、日本は震災に見舞われ、とても沈んだ空気が立ち込めています。


今年に入ってからいろんなことが起こりすぎてどうにかなってしまいそうです。

大地震まで襲ってきて、正直未来に希望が見いだせないくらい心がめげた時もありました。被災地の方々にすれば「何を弱音を吐いてるんだ?」と怒鳴られそうですが、実際に東京も大きな打撃は受けています。


そんな中、僕はFacebookもやってるのですが、イギリス時代に出会った友達が世界中から応援のメッセージを送ってくれた。みんな日本のことを心から心配してくれて、その言葉の一つ一つに僕は丁寧にメッセージを返信している。


イギリス、コロンビア、ドイツ、フランス、スペイン、ロシア、韓国etcみんなが心配してくれた。


「大丈夫、きっとまた元の生活に戻れるよ。安全を保ってね」

「日本のニュースを毎日見てるよ」


といった感じにみんながメッセージをくれる。


先月の初めのことだった、トルコにいるセイハンという友達が僕にメールをくれた。


彼とはイギリスで一人の日本人の女の子を取り合った仲。と聞くとかっこいいけど結果は彼のボロ勝ちだった。でも結局、その女の子も留学期間が終わって早々に帰っちゃって、セイハンは結局付き合えなかった。


それ以来、彼は「聞いてくれよ、あの女はひどいんだ!」と僕に泣き付いて一緒にヤケ酒をくらったりをやっているうちに僕たちは国境を越えた親友になっていた。


イギリスであんなに仲良く、冗談を自然に言い合えた友達はほかにいなかった。まるで地元の幼なじみみたいだった。


セイハンはとても英語が達者でわかりやすく僕の知らない単語や表現をたくさん知ってて「ああ、こういうときはこう言えばいいんだな」とかとても勉強になった。この上ない英語の練習のパートナーでもあったし何より気さくで冗談好きないいやつなんだ。あの頃のイギリス生活が僕にとってはもしかしたら一番楽しかったかもしれない。


そんな彼が僕にメッセージをくれた。「おい、大丈夫か?日本は大変なんだろう?放射能漏れで水も飲めないそうじゃないか」と彼は心配してくれた。僕は素直にうれしく思い、「心配してくれてありがとう、僕は大丈夫だよ」と返すと、それでも彼は「なんか食い物でも送るよ、君のアドレスを教えてくれ」と言ってきた。


日本人は「結構です」って遠慮するのがあたりまえだけど、欧米では相手のオファーを素直に受け入れる。僕は彼に住所を教えて、一つリクエストをした。それは彼が語学期間を終えてイギリスを去るお別れの日にくれたトルコのお守りのブレスレットだ。


彼は語学学校最終日にみんなを集めてパブで酒盛りをした、たしか2007年の春ごろだったと思う。そのとき彼は僕に「ロビン、君は特別な友達だ。君がいなかったら本当にこの留学はつまらなかったよ。この留学で君という友人を得たのが一番の思い出だ」彼はすっとブレスレットを僕の右手にやさしく通してくれた。


「これは、ナザールといってトルコならどこでも見かけられるお守りだ。この模様は目を表現していて、この目が邪気や不幸を遠ざけると言われている。へたくそで悪いけどこれは僕が作ったんだ」セイハンは一瞬照れ笑いを浮かべた後、僕をまっすぐに見つめて言った。


「いいかい、ロビン。これから君は4年間ここイギリスでグラフィックデザインの勉強をするんだ。これから先、タフな生活が待ってるかもしれない。でも、どんなに辛いことや悲しいことがあってもこのブレスレットが必ず君を守ってくれる」セイハンの奇麗な栗色の瞳には濁りが無かった。「だから、これから勉強をがんばってくれ。そして君はこれからもずっと僕の大切な友達だ」そういうと僕たちは長いハグをかわした。


そのブレスレットがお気に入りでその日から毎日、寝るときもずっとつけていた。本当に毎日、毎日、お台場で灼熱の太陽の下でバイトしていたときも、イギリスで課題に熱中していたときも。でも、イギリスを去る年にある日突然ひもが切れてしまった。青い目の模様は散り散りに床に散らばって全てかき集めたけど元には戻らなかった。


あのブレスレットのおかげで、僕はイギリス滞在中に特に大きなトラブルに巻き込まれたり大病を患うことも無かった。いつか、トルコに行ったときに買いに行こうと思っていたのだけど、この機会に「もう一度送って」とセイハンに頼んでみた。


それから数日後、僕の家に一つの小包が届いた。

小包というか、15cm四方の絵本に出てくるクリスマスプレゼントの箱みたいなサイズの段ボール箱が届いた。ガムテープがぐるぐる巻きにされていて所々へこんでいた。


僕はそれを丁寧に開けると、中には5,6個のメーカーの知れないチョコレートと僕が欲しかったナザールのブレスレット、そして一通の手紙が添えてあった。長くはないので、その全文をここに紹介しよう。



親愛なる友、ロビンへ

この度の震災と津波によって多くの命が奪われたこと、そして放射能漏れの被害にとても深い悲しみを覚えています。

僕は毎日、日本のショッキングなニュースをチェックしているし、君や君の家族、そして愛する人々へ深い同情を表現したく思っている。この悲劇を通して何よりも僕が感じたのはあなた方日本人が驚くべき秩序だった姿勢で立ち直ろうとしていることだ。

食料不足にもかかわらず、人々はちゃんと並んで順番を待っているし略奪も暴動も全く起きていない。トルコの日本領事館は僕らトルコ人のサポートに感謝しているとテレビで言っている、でも僕らは何もしてあげてない、だって日本政府は僕らに援助すら頼んでないんだもの。

僕は日本が偉大なる国家であることをもう一度証明することと信じている。

ほんの少ししか君を励ますことができないかもしれないけど、僕の大好きなチョコレート、そして君がほしがっていたブレスレットをトルコの思いと共に送ります。ブレスレットは君のサイズにあわせられるように余裕を持たせてある、でもまた壊れたらいつでも言ってくれ。



そして最後にどこかで調べ手のか、丁寧な日本語でこう書かれていた…


「お体を大切に。お返事お待ちしております。」


セイハン




僕はこれを読みながら涙が止まらなかった。我慢が出来なかった、涙腺を通じて涙が目から溢れ出して胸が熱くて…


セイハン、君はなんて良いやつなんだ、たった六ヶ月くらいしか一緒にいなかったのに、海の向こうから僕のことを本当に心配してくれてる。


チョコレートってのがなんだか、泣けてくる。これじゃあお腹はふくれないけど、彼の優しさは充分に伝わってくる。


友達は人生の財産だ。僕は良い友達に囲まれているんだなあ…

全世界の日本を心配してくれている優しい方々へ、

心を込めて「Thank you」を捧げます。


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