2017年5月 のアーカイブ

「駐車場から出られなくなった」の巻。


先週の或る日。都内へ病院へ通う家内を駅へ送った時のこと。

病院へは一時間の長旅ゆえ、始発駅へと向かったのが不幸の始まり。

駅への道中。思考が昼食に流れると昨秋、駅の構内にとても美味しいパン屋さんがオープンしたのを思いだした。そうだ!。あの店でコロッケパンと玉子パン、それに塩パンも買おう。

ちょっとしたルンルン気分になると、駅の傍の駐車場に到着。

気をつけてね…。

家内とは入場券とパンを買ってもらった後、別れたのだが、気をつけなければならないのは、おのれの方だった。

クルマに戻り駐車場を出ようとすると、ない。

どこを探しても、ない。

いつもジャリ銭を入れている、蝦蟇口がないのだ。

慌てふためく、わたし。

とりあえず、日頃培った営業で、この窮地を脱すべく駐車場に備え付けてあった電話で交渉に臨むも、にべもない。

「お金を用意してもらうしかありませんね!」

あっさりと断られて、チョン。

わたしの持ち物と云えば、クルマの鍵と携帯電話だけ。

百円玉の二、三枚をどうっやって都合つけるか。

冷静になって考える。

先ず脳裏に浮かんだのは昨夏まで世話になっていた洋服屋の店長が隣のデパートに移籍しているから、彼女に借りること。

駅前の釣具屋がわたしの通う渋谷の店と同系列ゆえ、そこから話を回してもらうこと。

いずれにしても、どうにかなるであろうが、問題は時間。

時計の針は未だ、9時を指した処。

店が開く10時までをどうやって時間を潰すか。

とりあえずのところ、怪獣捕獲ゲームしか頭に浮かばないが、これをやるにも雨が降っているし、運動靴ではなく下駄履きのままだ。それに何と言っても小糠雨とはいえ、下駄履きのジジイが傘も差さずにスマートフォンを操作している姿は、甚だ、格好が悪い。

で、途方に暮れかかっているとロータリーに停まる、一台のオートンが目に入った。

そうだっ!。あれに乗せてもらって往復してこよう。

しかし、問題は貌。

わたしは親を恨むしかない悪相だけに、冷たくあしらわれる可能性が充分にある。が、だからと云って、このままではいられない。

トンっトン!。

意を決っしてドアを叩いた。気配に振り向いた運転手さんは、わたしと同年輩に見えた。白髪混じりの初老のオジさんだった。

平身低頭でお願いをする。

「あのお、わたしは決っして怪しいものではありません。不覚にも財布を忘れまして…。あそこに駐めてある屋根の赤いクルマが出せずに困っています。申し訳けないですが、わたしの自宅まで往復してもらえませんでしょうか。間違っても、籠抜けなどは致しません。必ず、必ず、戻って参りますからっ!」

「……」

沈黙が流れた。

運転手さんの顔は険しい。

これは断られるか!。

半分諦めかけた。

が、運転手さんの顔に笑みが浮かんだ。

そして戻ってきた返事は、「いいですよ」。

嗚呼、天は我を見捨てず。

必死の願いが叶った。

ひとのよい運転手さんでよかった。

こうして自宅を往復。

安堵安堵の三度笠で、駅に戻ってきて運賃を払おうとした時のこと。

「いやぁ。運転手さん、ありがとうございました。わたしはヤ〇○顔だけに、断れるかと思っていたのですよ」

こう云って、僅かばかりの心付けも含めてお支払いをすると、こう言われた。

「アッハッハ、わたしは顔で判断はしまねんから」だって。


お仕舞い。


未校正につき、誤字脱字、乱筆乱文をお赦しください。


17年5月28日。


吉右衛門。


付記。

多忙のため、休載しておりましたブログを復活させます。

それにあたり、運営の移動も行います。

長く一生懸命頑張ってくれていた編集長の、飛行機雲が退任。

新任の編集長は、メロンパン。

副編集長は、アクトレス(仮称)。


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