「ペンキ屋が帰ってきた」の巻。中編。


逢いたい気持ちが募り始めた。

いろいろな話を訊きたくなった。

異国での話。

未踏の地での奮闘話。

また文化や歴史、そして民族についても訊きたかった。

しかし、躊躇いがないわけでもない。

誘えば彼女のことだ。応じてはくれるだろうが、その気がなければ気の毒だ。それについ先日まで散々思案して、静観すべし、と結論づけたこともある。

自分のなかで欲望と理性の壮絶なる闘いが始まった。

冷静なもう一人の自分がその闘いを観ていたら、あっけなく勝負がついた。欲望が理性をねじ伏せたのだ。静観すべし、と決めた己の意思の弱さには呆れるばかりだった。


勇気を出して、逢いたい、と告白してみた。

返信は直ぐにきた。

時差で安定していないという。

可哀想な気がした。

浅はかだった。

矢張り、告白すべきではなかったのだ。

忸怩たる思いに苛まれたが、きっぱりと諦めることもできた。

私の頭の中は魚釣り一色に戻った。


秋も更け始めた今月の十日頃、私は病に臥せていた。

そんな私を知ってか知らずでか、彼女からメールがきた。

安定してきたので出てきてくれるという。

すっかり諦めていただけに、素直に嬉しかった。

それから数本のメールを交わし、日時と場所が決まると何故か、私の喉はからからに渇いていた。


続く。


2014年10月25日(土)

吉右衛門


※時間の関係で下書きのままでの更新となっております。

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