2011年10月23日 のアーカイブ

吉右衛門の闘病日誌、六日目の巻。


不眠が続く。原因は不慣れな環境や手術後の処置。

そこで昨晩は思った、入院最後の夜くらいは寝てやろう、と。

前夜、23時まで睡魔を完封して就寝、朝まで寝るつもりであったが、

残念でした。またも午前2時に目が覚めてしまった。


真夜中に天井と睨めっこをしていて思考が流れた先は、女房の事。

今回の事では、彼女を随分と不安に陥れ心配をかけた。

今更だけど、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

今からちょうど40年前、

オレはまだ若くて可愛かった、彼女を口説いた。

そして「うん」、と言わせ所帯をもった。

一緒になった当初は、こんな事は考えもしなかったが、

苦楽を共にし、お互い年を重ねてくると、

男として守らなくては成らないものが、わかってくる。

そう、口先だけではなくて、だ。

彼女は結婚してから36年の間、

家事と育児に勤しみ、いわゆる勤めを経験していない。

そんなわけだから、オレに先立たれたら、路頭に迷うだろう。

ましてや、世はエレクトロニクスの時代だけに尚更だ。

それに、何よりも40年も一緒に暮らしていただけに

寂しさにも耐えられないだろう。


その辺の処をよく考えてみると、

矢張り、オレが先に逝ってしまうのは酷だろう。

ズッと昔の事だけど、

口説いた時の、「幸せにする」って約束は守らないといけない。

だから、その辺の寂しさや悲しさは、オレが全部引受けるべきだ。


前夜に任侠映画をみていたせいで、妙に男がでてしまった。


そんな事をグルグルと考えていたら、夜が明けた。

窓の外は雨、路面が濡れている。

そんな景色を延々と眺めていたら、

女房と娘が疾風のように現れて、アッと言う間に部屋を片付け、

看護士さんに部屋の明け渡しをして、一件落着。

退院と、相成った。


オレの細く閉塞されつつあった血管を拡げてくれた先生方、

毎朝、毎夜オレの世話をしてくれた看護師さんたち。

どうも、ありがとうございました。

オレは、退院します。


お仕舞い。













ブジカエル。


2011年10月22日。

吉右衛門。



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