「あしたのジョーを訪ねて」の巻。前篇。


この記事をひこうき雲の妹君、黒木葉子さんへ捧げます。


あれは昨年の暮れのことだ。

仕事で事務所から足立区の綾瀬へ向かう途中であった。

日光街道を北上し三ノ輪の交叉点から明治通りを白髭橋へ向かっている途中、愛車のナビゲーション表記に「玉姫公園」なる地名が表示されていることに気がついた。

若いスタッフの方には馴染みがないかもしれないが、玉姫公園とはあの有名な漫画、「あしたのジョー」の主人公である矢吹丈が、のちにボクシングの師匠となる丹下段平と運命の出会いをした場所だ。

あしたのジョーは私が中学から高校の頃に連載されていた劇画である。

中学から高校…。

今の私には、遠い昔であった。

そんな郷愁に好奇心までもが入り混じると、覗いてみたい衝動に駆られてきた。

しかし哀しい事に、今は仕事中。

勤務中に玉姫公園へ寄る事は、あるまじきことだと思う。

私にだって立場があるし、その程度の自制心は持ち合せている。

今度の休日に来よう…。

そう決めて素通りするつもりだったが、そうは出来なかった。

自制心が猛烈な好奇心に襲われ、あっさりとKO(ノックアウト)されてしまったからだ。


ここが玉姫公園か…。

劇画とは随分違うが、それはそうだろう。

連載開始が45年ほど前だから、約半世紀も経っている。

しかし面影はあった。

瞼を閉じて目の前の光景に45年前の想像画を重ねてみると、なるほどと思った。

矢吹丈、丹下段平、白木葉子、力石徹、西寛一、林紀子…。

これらの登場人物の顔が次々と浮かんできた。

すると遠くの彼方へ消え去っていた自分の青春も甦ってきて、不思議な感情に支配され、あの頃に戻ってみたくなった。

高校時代は楽しかった。青春であった。

勉強ができなくて追試の連続だったが、生徒会と部活に勤しんだ。

複数の部活の部長を兼務し、各種委員会の委員長も掛け持ち、挙げ句に生徒会長迄に登り詰めた。

天下を取った気になって、いい気に成っていたことが思いだされる。

あらから社会に出て、40年以上の歳月が経過した。

今と成っては何処でどうなってこうなったのかは、自分でもわからないが、グラフィック関係の隅っこにちょこんと座るオヤジに治まった。

エリートとはほど遠い私がどうにかやってこれた土台は、あの頃に作られたのだと思う。


あしたのジョーを訪ねて玉姫公園へ寄ったのに、何故か思考がおかしな方向に流れた。

もう少し探索してみたかったが、そうはいかない。

KOされた筈の立場と自制心の凄まじい逆襲が始まった。

生真面目な性格と自分の立場が恨めしく思えた。

そう思うと未練を断ち切り、綾瀬へと向かった。


続く。


2014年02月16日(日)。

吉右衛門。


次回は「あしたのジョーを尋ねて」続編の巻です。


下部に掲載した写真キャプション。

上から、

名称表示、

玉姫公園、遠景図、

同上、近景図。






































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