歌姫誕生、の巻


潮風になびかせたスミレの髪が頬にかかっている。

晩夏の海風は心地よかった。

場所は鹿島灘に面した、阿字ケ浦。

食道の女将に案内されたところであった。


「私、あの沖に浮かぶ白い船まで泳げますよ」

スミレは、沖往く船をみて微笑んだ。

彼女は泳ぎが達者であった。

中学校まではバタフライの選手だったという。

人間も鍛錬次第ではそんなにも泳げるようになれるのか…?。

然し、沖を往く船までの距離を考えると、

自分には想像すらも出来ない芸当だと思った。


「そろそろ帰ろうか」

景色に見蕩れているスミレを促す。

日立の出張の帰路に立寄ったのだが、

時計の針は、16時。

これから鹿島灘を左に見ながら南下、

北浦を経由して潮来から東関東自動車道に乗って帰社する予定だ。

事務所までの距離はザッと200km。

ひとりで運転するには、辛い距離であったが、

出来ないこともないと思った。


意気軒昂であった。

いざというときは、根性で押し切るつもりであった。

しかし、北浦の辺りから睡魔が忍び寄ってきた。

懸命に振払うが、睡魔も執拗だ。

スミレに気取られまいと振る舞うが、段々と心に動揺がでてきた。

スミレが異常に気づいて休憩を申し出てくれたが、

田圃に車を停めて、若いお嬢さんと寝るわけにはいかないだろう。


「悪いけど、歌でも歌ってくれないか」

「恥ずかしいから、嫌です…」

消え入るような声で、断わられた。

「じゃあ、演歌を流してもいい…?」

「いいですよ」

iPodを接続して演歌を流す。


吉幾三の雪国が流れた、静かに聴いているスミレ。

次は石川さゆりの津軽海峡冬景色、



天城越えでは、


天童よしみの珍道物語ではステレオの音量を下げ、


スミレの十八番である、

長山洋子のじょんがら女節では、

勝手にスイッチを切り

懸垂巻用の丸棒を三味線にみたてて、

掛け声と共に、アカペラで歌いだした。


こんな風に書くと戯れ言かと疑われてしまうし、

本人も否定するかと思われるが、

これは事実だ。

そして、その歌唱があまりにも見事であったので、

その歌詞を書き留めておく。


じょんがら女節


スミレさま。

お陰さまで、すっかりと眠気も醒めたです。

有難う御座いました。

そして、中森明菜さんの代名詞、

「歌姫」を貴女の呼称とさせてもらいます。


お仕舞い。


吉右衛門。


オマケ、

写真です。

キャプション、

上から、

沖往く白い船。

二枚目から、

自然な笑顔がでるようになった。



コメント / トラックバック4件

  • ニコタマゴロウ:

    あははは。
    恐れて誰もコメントしないじゃないですか。

    吉右衛門さま、いつもありがとうございますm(_ _)m

  • ひこうき雲:

    美しか~です。
    自慢したいほど、素敵ですねー(^_^)

  • kichiemon:

    スミレさま

    この日はお陰で事故を起こさずに帰社出来ました。
    有難う御座いました。

    吉。

  • kichiemon:

    ひこうき雲さま

    この写真は、いい上がりでした。
    最大の理由は、
    彼女がレンズの前で緊張しなくなったからです。
    しかし、緊張しなくなった分、
    仕事でも言うことを聞いてくれなくなりました。
    困ったものです。

    吉爺。

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