2015年4月16日 のアーカイブ

「バレリーナ」の巻。


三月上旬の昼下がり、私は銀座にいた。

ここで時間を潰すために入いったデパートで、

過去に経験したことのない、甘美な思いができた。


宛もなくのぞいたお店に、とても素敵な靴が飾ってあった。

色は赤。

華麗であった。

正面からだけでなく、右からも左からも眺めてみた。

どの角度から見ても、息をのむような美しさだった。

あまりに出来具合に見惚れていると、

傍にいた女性の販売員さんが話しかけてきてくれた。

説明を訊くと、

靴の名は、「バレリーナ」という。

何と美しい名だろう。

私が職場のスタッフに名付けるHNとは、えらい違いだ。

そして説明を訊けば訊くほどに、

この靴を買わずにはいられなくなった。


孫娘に買おうと思った。

意を決した私は、ふたたび販売員さんに尋ねてみた。

「この靴を、二歳半の孫娘に買ってやりたいです。そして今から、

十五年後。彼女が十八になった時に箱を開けさせたいのですが、

可能でしょうか?」

満面に笑みをたたえた販売員さんは、

ひと呼吸置いて、こう答えてくれた。

「多分ですけど、劣化して難しいと思います」

「……」

残念であった。

あきらめきれない自分がいた。

しかし、一瞬とはいえ、

孫娘が爺さんから贈られた箱を開ける姿を夢想することができた。

そした、成人前の彼女にも逢うことができた。

それは、とてもロマンチックで夢のような時間であった。

ありがとうございました。


お仕舞い。


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