2012年6月6日 のアーカイブ

2023年某日、「民宿ちゃこ」を訪ねた。の巻。


オレはペンキ屋が可愛い。

ペンキ屋を、猫っ可愛がりしている。

先月の或る日、そのペンキ屋の夢をみた。

切なくて胸が、キュンとなる夢だ。

人間、齡六十が迫ってくると、センチメンタルになっていけない。


あれはペンキ屋を連れて、都寿司へ行った時の夜。

ペンキ屋に喜んでもらいたくて、この店を選んだ。

この店の予約は大変。随分と苦労する。

今回の予約も先々月の半ばにやっとであった。

然し、そこまでしても、

ペンキ屋に、喜んでもらいたかった。

そんな得体の知れない魅力が、ペンキ屋にはある。

夕刻、ペンキ屋と入店。

生の麦酒を1杯、2杯…と飲み干し、お任せで握ってもらう。

美味しい、美味しい、と笑顔で頬張るペンキ屋。

そんな上機嫌なペンキ屋をみて、ほくそ笑むオレ。

連れてきてよかった。オレにとっても至福の時間だ。

宴が進むと、酔いが廻ったのか

ペンキ屋のウナジが桜色に染まってきた。

オレがもう少し若ければ、ロマンチックなハートに火がついて、

次の店に流れるのであろうが…、流れない。

今のオレには、コレが精一杯。

ひと通り飲んで食って、あっけなくお開き。

人形町の駅で別れたのは宵の口の、19時ピッタシだった。


夜。

夢をみた。

ペンキ屋に逢いに行く夢だ。


電車とバスを乗り継いで、どうにか目的地まで辿り着いた。

そこが山の麓なのか湿原だったのかは、覚えていない。

ただ、近くに海はなかった。


バス停で待つように言われ、ぽつ然と待つ。

数分待ったであろうか、

ペンキ屋が、軽トラックで迎えに現れた。

10年ぶりの、再会だ。

軽トラックの側面には、「民宿ちゃこ」

とゴシック文字で小豆色のCSが貼ってある。

そう、オレは今、

昔、働いてもらった娘たちを尋ね歩いている。

そして今回、民宿の女将におさまった、ペンキ屋を訪ねた。

「久しぶりだな、逢えて嬉しいよ」

「こちらこそ、遠い所をありがとうございます」

「オマエ、子供は?」

「3人です。一番上が来年小学校」

「頑張ってんな」

「ぼちぼちです…」

「ぼちぼちなんて言葉、いつ覚えたんだ」

「旦那が、関西ですから…」

そうか、そうだった。コイツの亭主は関西人だった。

「オマエ、変わんねえな」

「社長は老けましたね。幾つになりました?」

「七十…」

「えぇーっ!、ななじゅーっ!」ぎゃははははーーーっ!。

「……」。


この晩、オレは随分とペンキ屋に世話を焼かせてしまった。

ひとっ風呂あびて、

手料理をゴチに成り、飲めない酒も注いでもらった。

「お冬姉さん、元気でした…?」

「白い家に棲んでた」

「スミレちゃんは…?」

「絵、描いてた」

「あとは…?」

「鶴嬢は年をとらない、相変わらずスレンダー。

画伯が帰国してデザイン事務所を開いた。

それから、ピーナツは東尋坊の土産屋に嫁いだ。

あとはオマエの知らない人だし、オレもよくしらない…」。


翌日、バス停まで送ってもらう。

そしてバスが来て、お別れ。

いつまでも、いつまでも、手を振ってくれた、ペンキ屋。

もう逢えないのだろうな…。

でも、ペンキ屋の幸せが確認できたからいいじゃないか。

寂しさと安堵感が入り混じった複雑な思いで、帰路に赴く。


この辺りで目が覚めたのか、

別の夢に移ったのかは覚えていないが、

確か夢のなかで「70」と言っていたから、

これは11、12年後だ。


オレは今、また体調を崩して休んでいる。青息吐息だ。

そんなオレが七十歳なんて、まさに夢のよう。

でも、そこまで頑張れて、

スミレ、ペンキ屋、ピーナッツ、美冬に逢いに行けたらいいなあ。


吉右衛門。



カレンダー
2012年6月
« 5月   7月 »
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
アーカイブ