吉右衛門へら鮒釣り2011
◎第参回釣行 06月08日(木)
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三島湖。
豚小屋下一番升。
ともゑ釣舟店。
晴天、風。
気温26度、減水2.6m、水温21度、水色澄み。   

堪え難きを耐え、土俵際で九死に一生を得た、の巻。

この夏、孫が生まれる。
初孫だ。
この報せが長女から届いたのは、桜の花が満開だった頃。
嬉しいような照れくさいような、何ともいえない気分であった。
あの娘がねえ…。
娘の幼少期に思考が流れると、結婚当時の事までも思い出した。
私が女房と所帯と持ったのは、1.975年の春。
私も女房も二十一の時であった。
町の公民館で篠やかな式を挙げ、練馬の上石神井に在ったアパートの一室で新たな生活のスタートをきった。
あの頃、街には、南こうせつとかぐや姫の「神田川」が流れていて、私も小さな石鹸をカタカタならしながら、風呂屋へと通ったものだ。
その時の私の職業は、池袋に在った町工場の、工員。
そんな年端もいかない工員が何のビジョンもなく、共働きで適当にやろうとしたが、青すぎた。
直ぐに子供が二人も生まれて、家計は火の車に陥った。
大変であった。
然し、一家団欒は楽しく、笑いが絶えることはなかった。
今、思い出しても、あの頃が一番楽しかったような気がする。
私は浅学非才の典型だが、家族を守る為、頑張って体を張った。
賃金に釣られて職を二度も変えた。
工場勤務では残業に汗を流し、営業職では少しでも多くと売り歩いた。すべて家に金を持って帰る為だ。
こんな事を書き並べていると、悲惨な生活を連想されそうだが、この時代が幸運であったのは、私のような出来悪も、体さえ動かしていればなんとかなったし、飯が食えたことだ。
然し、これから誕生する子供たちは、この難解な二十一世紀を生きていかねばならない。
それを考えると忸怩たる思いもするが、女房と娘がハシャギ廻る姿を見ていると、そんな思いは消し飛んでしまう。
それにしてもだ。
「おじいちゃん」と呼ばれたら、何と答えればいいのだろう。
感激して泣かないようにしないと、笑われる。

今回も三島湖にやってきた。
入釣を希望してきたのは最果てのポイント、ダムサイドだ。
そして今、ダムサイドに到着。車を取水塔付近に停める。
誰も居ないといいなあ…。
恐いものでも見るように、取水塔の上から現場をのぞいてみると
残念でした。どちらも売り切れでした。
而も、結構、賑わっている。
中央ロープに二艘、第二候補のポンプロープの大オダにも一艘、
そして鳥小屋方面にも、ザっと見渡して、十艘くらいの舟が点在している。
「…………」。ションボリしても、はじまらない。
時計の針は、七時二十分。
考えてみたら、この人たちは二時間以上も前からココにやってきて陣を張っている。それをこんな時間にノコノコやってきて希望の場所がどうのこうのと言うこと自体が、図々しい。
仕方がない、もう何処でもいい…。
諦め半分で、釣舟屋へと向かう。
……、
「おはようございます……、おはようございまーす」、
二度目で女将さんが出てきてくれた。
そう、オレは三島湖にくる時はいつも、ともゑ釣舟店さんに草鞋を脱ぐのだ。
女「あら、おはようございます。この前は釣れました…?」
吉「ハイ!、オレにしては珍しく、三一匹も釣りました」
女「それはよかったですね。今も釣れてますよ」
破顔一笑、釣果表を見せてくれた。
上流域(ほうの台)は放流べらが沢山釣れていて束以上、
下流域(鳥小屋〜ダムサイド)は数に劣るが目方は上流と互角。
果て、どうしよう。
下流域は既に視察してきたし、上流域は未踏の地だ。
そうなると消去法で今日も桟橋ということになりそうだが、連続して同じ場所というのでは芸がない。せめて豚小屋の隅っこでも空いているといいのだが…。
微かな希望をもってベランダに出てみると、天は我を見捨てず。
桟橋前の一番升が、「お待ちしていました」とでも言わんばかりに、ポッカリと空いている。
よかった…。今日はココでやらせてもらおう。
家を出てくる時には考えもしなかったポイントだが、まあいい。
ココは前回の希望ポイント。
売れ残っていた幸運に感謝して、陣を張る。

釣行記写真
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本日入釣場所の、正面図。

◯本日のデータと予定。
・目標/三〇枚。
・竿 /朱門峰凌.13尺。
・浮子/忠相グラスムクトップ.10番。
・鉤素/450粍+600粍。
・餌 /両団子。
・納竿/定めず。

午前八時三十分、
始動。
目標を強気に三十としたが、ガッカリするほど浮子が動かない。
十分、二十分、三十分…、動かない。
四十分、五十分、六十分、経過しても微動だにしない。
既に、何かが起きてもおかしくない頃だし、最初の八百cc攻撃も終わろうとしている。それといつもなら、浮子下に散らばる粉を吸いにやってくる、地魚が姿を現さない。
今日は休みか…?。
いやいや端っことはいえココは天下の豚小屋。そんな筈はない。今度は全神経を眼球に集中して偏向グラスでのぞいてみたが、
誰もいない。やっぱり留守のようだ。
参ったなあ…、予想だにしなかった展開に戸惑う、オレ。

午前十時、
追い討ちをかけるように、衝撃の光景が目に飛込んできた。
看板升に陣取っていた四名がロープを解き放って離脱していく。
本命ポイントがこの様では、オレの出番などあろう筈がない。
この事から、今日、浮子が動かないことのすべてが理解できた。
マズイ日にきてしまった。
今日は、釣技下級者がきてはならない日だったようだ。
……、
ココでちょっと、オレの釣果零の歴史を振り返える。
2007年4月の再開以来、今日の釣りが通算117回目。
その間に「零」を喰らったのは、二回しかない。
一度目は四年前の建国記念日。(2008年第3回)。
出舟時に出負けして場所に溢れ、彷徨の末に沈没。
二度目はそのひと月後。(2008年第5回)。
ダムサイドが釣れているというので出掛けてみたら、酷寒と取水塔の工事による騒音に、寒さと耳鳴りで逃げ帰ってきた。
次に釣果零率はというと、いつも、「釣れない釣れない」を連呼している割には、「117分の2」と意外なほど低い。
こういうと、平日の三島湖・戸面原ダムだから当たり前、との声が聞こえてきそうだが、オレは「先天性釣技欠乏症」という大きなハンデを抱えている。そのハンデを乗り越えてのことだから、矢張り低いと思う。
然し、釣果零は上述の通りだが、
土俵際で九死に一生を得ての生還は、数知れない。
釣技の持ち合せがないオレは、創意工夫が出来ない。
だからそれを、粘りと頑張りで補う。
堪え難きを耐え、
好機が到来するのを息をひそめてジッと待つのだ。
ご苦労なことだが、今日の釣りもそうなるのだと思う。

釣行記写真
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本日入釣場所の、下流図。
本命ポイントが空いたので、三名しか竿を振っていない。

午前十時半、
「へら鮒釣りの王道は両団子」と生意気は言っていられない。
幸いエサ鞄の中には過日、四街道の釣り具屋で買った新品の角麩と前々回用いたバラケ餌の残りがある。
緊急避難として、仕掛けを角麩仕様にモデルチェンジする材料は揃っているが、どうしよう…?。
迷う必要などなかった。今日はそうするしかあるまい。
そう決断して選抜した竿は、十五尺竿。
コイツに「必殺の蛹爆弾」を抱えさせて窮地挽回を狙う。

◯モデルチェンジしたデータと予定。
・竿 /朱門峰凌.15尺。
・浮子/痴舟パイプトップ.12番。
・鉤素/100粍+600粍。
・餌 /角麩セット。
・納竿/釣れる迄。

苦戦覚悟で再開。
今まで幾多の戦果をあげてきた、蛹爆弾。
オレの戦局挽回の切札的存在であるが、今日に限ってそうは問屋も卸してくれまい。
少しの期待と大きな不安を同居させて、エサを打つ。
10分、20分、30分、40分、50分、60分…、何もない。
溜め息をついていたら、時報が流れた。
十一時半かあ…。
こんな日もある…。今日は運が悪かった。
そう思った瞬間だ。何となく浮子が揺れたようにみえた。
風か。
気の迷いかもしれないから、今度はしっかりと凝視してみると、
魚だ。
遂にというか、とうとう浮子が動いた。
安堵感と同時に、朝の情熱も甦ってきた。
まだトップの動きは頼りないが、何れ、角麩が仕事をしてくれるに違いない。そう思い、浮子が湖底に引き込まれるのを夢見て、ジッと浮子を凝視する。
緊張で、竿を持つ手が汗ばんできた。
オレは何をやっているのだろう。タカが魚釣りではないか…。
自嘲していると力感には欠けるが突然、浮子が水中に没した。
空かさず合わせると、確かな手応え。
今日、初めて味わう魚の感触だ。
然し、左手が玉に伸びた瞬間、呆気なくバレてしまった。
「……」。

正午、
本日ただ今の釣果は、零。
先ほどは、この日唯一、訪れた好機を逃してしまった。
感触もスレではなく、口に入れてのものだったと確信する。
それだけに悔しさも、残念の二乗だ。
気を取り直そう…。
今度こそ、仕留める。
この思いを胸に再開。エサを打ちだす。
五分で浮子が動いた。ふわふわとした微弱な動きだが嬉しい。
そして、浮子が水中に没するのを、息をひそめてジッと待つ。
待てど暮らせど、浮子は姿を消さない。ズッと微弱なままだ。
トップの塗料幅は十二、三粍。とすれば動きの幅は、五粍程度。
この五粍の動きが、オレをオチョクルる。
そもそも、この動きは何だ!?。
バラケエサ周辺に居る魚が、粉をパクパクやっている振動か。
それとも、ペロリと舐めて嗤っているのか。
そんなに粉が美味いのなら、いっそ両団子に戻した方がよいのではないか。こんなしょうもない事を考えていたら、いきなりだ。
脳天金槌が奇麗に決まって、消し込んだ。
シメタっ!、とばかりに合わせると、
ゴツンっ!、と大きな手応え。
今度は慎重に!。
自分に言い聞かすように竿を、溜めて溜めて、耐えていると、
プツーンッ!、大きな衝撃が走る。
悄然たり、天は我を見放した。

十三時、
釣れている時なら、二回くらいバラしたっていい。
然し、今日は困る。ホントに困るのだ。
可成り弱気になっての、再開。
三度目の正直があればいいが…。
直ぐに例の五粍の動きが始まった。
最初はこの動きに気分も昂ったが、今は苛つくばかり。
最早、オレの手には負えない。
これ以上、続けても恐らく結果は同じだろう。
……、
本来は自己解決が基本のへら鮒釣り。
然し、この際だから、痩せ我慢はやめよう。
サンスイ釣具店の武重店長に助言を求める。
現場が三島湖だということ、
十三尺の両団子で魚信がなかったこと、
十五尺の角麩にしてからは微弱な動きに翻弄されていること、
折角訪れた二度の好機もバラしてしまったこと。
朝から起きている不幸な出来事と、その切実なる思いを伝える。
そこで出てきた答えは、
竿の長さに疑問がある、
浮子の動きは糸ズレの可能性が高い。
それらのことから、「棚二本」を薦められる。
また、竿は絶対に離さないように!、との忠告も頂いた。
ありがとうございました。
早速、やってみます…。

十三時十五分、
竿は十一尺、浮子も二本の位置にして、最後の攻撃を始める。
然し、折角の助言も呆気なくギブアップ。
ギブの原因は技術不足。
どうしてもエサを、浮子の着水予想位置付近に落とせない。
駄目だ。甘かった。
仕方がないので、浮子を天々の位置に移動。
こうした妥協の産物で始めた、一投目。
ズボッ!。
何と浮子が湖底まで引きづり込まれるように、姿を消した。
突然、本日、三度目の好機がやってきた。
今度こそは、バラすまい。
祈るような気持ちで慎重に事を運び、玉で掬う。
釣った!。
嬉しさよりも安堵感の方が大きかった瞬間であった。
更に次の一投でも釣れて、怒りのダブル。
先ほどまで、釣果零の恐怖に怯えていたのが、嘘のよう。
今までの五時間は何であったのかとさえも思う。

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本日の、一枚目。

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連荘で釣れた、二枚目。

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同上、一枚目より大きい。

やっと魚籠に獲物を泳がせて、胸を撫でおろす。
嬉しさよりも、安堵感の方が大きかった。
然し、この安堵感が残り少ない情熱も奪い取った。
俄に満腹感が湧いてきて厭戦気分に陥った。
もうヤメようか…。
こうした後ろ向きの姿勢は魚にも伝染する。
五粍の動きもなくなった。
追い打ちをかけるように、思い出したことがある。
そうだ、そうだった。今日は若旦那に、逢いたかったのだ。
十五時になると桟橋が混雑する。
魚の顔も拝めたし、決めた。ヤメよう。
十四時二十分、突然、竿を仕舞う。

リフト下の小屋前でのこと。
念願の若旦那に逢えた。
嬉しい再会だ。
そして、逢えて嬉しいこと、
昨秋のオレは大変であったこと、
魚は二匹しか釣れなかったが、苦心惨憺が面白かったこと、
若旦那は、オレのトルに足りない馬鹿話を、ズッと笑顔を絶やさず聞いていてくれる。
オレの魚釣りは、釣果よりも人を優先する。
もうひとつの趣味、野球観戦は野球を観るだけだが、釣りの方は魚三割、人七割といった割合だ。
オレが三島湖にくると、いつも貧果に喘ぐ。
それでもココにきたく成るのは、ココの人が好きだからだ。
そんな事を改めて確認して、一件落着。
ありがとうございました。
満足感九割で、家路に就く。

お仕舞い。

釣行記写真
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豚小屋全景。

○本日の釣況。
・08:30〜10:20、13尺天々/0枚、両団子。
 10:30〜12:50、15尺天々/0枚、角麩セット。
 13:00〜13:15、11尺2本/0枚、角麩セット。
 13:15〜14:20、11尺天々/2枚、角麩セット。
・合計 二枚。
 壱尺零寸五分〜壱尺壱寸五分。

○この日の釣果データ。

釣行記写真
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日刊スポーツ、釣り欄より。
見事、逆竿頭であった。

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○2012年データ。
・釣行回数/3回
・累計釣果/44枚、平均/14.7枚。


2012年06月24日(日) 。
吉右衛門。



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〔最終更新日2008年6月30日〕

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